[POPS] [平井]

一枚のレコードから

私にとっての、この1枚

キー・オブ・ライフ/スティービー・ワンダー

こばやち 1999/08/16
ワタシが洋楽聴き始めた頃、ちょうど'70中頃より後半に掛けて、
世間は第2期ディスコ・ブームでヒット・チャートでもソウル・ミュージックが
ガンガンかかっておりました。
スタイリスティック、Kc&サンシャイン・バンド、etc。
TVでは12chanで「ソウル・トレイン」。
シングル盤の解説にはステップが載っていたりして(ステップがあったんですよ)
小学生だったから行けなかったけどかなり盛り上がっていたようです。
(と、言っても今のようにポピュラーなものでなく、
 そんなトコ行くヤツは不良である、なんて気風がまだまだありました。)
しかしアメリカではまだまだ人種差別が横行しておりまして、
今なんかのブラック・コンテンポラリィ・ブームとはまた違った雰囲気。
白人音楽と黒人音楽の間にはまだまだ深い溝があった様な気がします。
だから黄色人種の小学生にはちょっと買うのがためらわれました。
しかしやっぱ、いいものはいい。
そこでガマンの限界に達し、購入したのがこの「キー・オブ・ライフ」
中学1年の頃でありました。

なんせ2枚組みプラス、シングル1枚という構成。
4千5百円ぐらいしたっけな? かなり思い切りのいる決断。
それでも欲しかったんだから相当な思い入れがあったのです。
シングルがそんなにヒット訳ではないんだけど中学生ぐらいになると、
ヒット曲はないんだけどLPはすばらしいアーティストが
存在することがわかってきて、けっこうマニアックになってくる。
チャートには頼らずに他のラジオ番組や雑誌などで調べるに調べ、
熟考を重ねた上のこの「キー・オブ・ライフ」であります。
大正解、努力は報われました。

ROCKだとかソウル、ブルースという枠ではなく、「ポップス」。
だれもが楽しめる音楽、それがスティービー・ワンダー。
しかも単純に解りやすいってんでなく、とても緻密に作ってあり
解りやすいなかでもかなり新しい試みをやっているのが今聴くとよくわかる。
只単に同じことの繰り返しでなく根底に常に実験的な試みがあり
なおかつそれでマニアックにならず、一般にも受ける
真に偉大なポップ・ミュージックは古いコトの繰り返しでは産まれないのだ。
その意味で白人のポール・マッカートニーと黒人のこのスティービーは
ポップ・センスにおいて他の追随を許さない偉大なミュージシャンである。

その中学時代、現代国語の宿題で「私の尊敬する人物」というレポートがあった。
今だったらいくらでも書けるのだが、当時はそんなのかったるくてやってられん。
そんなヒマあったらサッカー・ボールを蹴っていたい、てきとーにお茶濁とこう。
と、その辺の歴史上の偉人をてきとーに選んで提出したのであるが、
当時しょっちゅうつるんでいたフクイくんは、
堂々と「スティービー・ワンダー」を選んで提出したのを今だ覚えている。
エライね、負けたよ。
今現在のセンスが当時あったらオレもすばらしいレポートが書けたのに・・・。
(その後彼はブラック・ミュージックに傾倒していく。)

それからモータウン(レコード・レーベル)を覚えて
ダイアナ・ロスやマービィン・ゲイに入っていくのだが、
切っ掛けとなったはこの「キー・オブ・ライフ」。
当時これ出す前までモータウンを出るの出ないのモメていたんだよね。
出ないでくれてよかった。
出ていたらモータウンなんて一生聴かなかったかもしれない。
あらゆる意味で彼に感謝である。

今だったら「尊敬する人物」に迷わず彼を選ぶ。