[POPS] [平井]

一枚のレコードから

私にとっての、この1枚

時の流れに/ポール・サイモン

こばやち 1999/08/16
私が音楽を聴き始めた頃はすでにサイモン&ガーファンクルは
活動を停止していました。
曲自体は知っていたのですがリアルタイムで聴いていたわけではないのです。
隣りに住んでいる姉貴がラスト・アルバムの「明日に架ける橋」を持っていて
ダビングさせてもらって繰り返し繰り返し聴いていました。
当時のヒット・ソングは先にも書いた通り浦安の想い出と繋がって
「夏」というイメージ、明るい青空のイメージがするのですが、
なぜかこのS&Gは「冬」の暗いイメージ。
「冬の散歩道」なんて曲があるほどで、そこから来るのでしょうか。
どうも暗くどんよりとした空が思い出されます。
暗いだけでなく、ちょっと切なさを伴った感じかな。
子供といっても人間で、毎日楽しいことばかりではなくいやな思いもたくさんあり
当然切ない気持ちになったこともあったと思います。
それら具体的なことは思い出せませんがその頃のどうにもならない切なさ。
その「切なさ」を最初に感じたレコードが「明日に架ける橋」であったと思います。

後に「マイ・リトル・タウン」というシングル盤をS&Gでリリースします。
'75ですからやはり中学1年生。
初めてのリアルタイムでのS&G。
そこにも「明日に架ける橋」から変わらずの世界がありました。
しかしシングル1枚で、あとはそれぞれのソロ・アルバムに収録といった
変則的な形をとります。
そのポールの方の収録アルバムがこの「時の流れに」です。

まずモノトーンのジャケット、最初にこれに惹かれました。
ちょっと小粋に帽子を被り髭を生やしたポールが笑っているのですが、
なにか切ない感じの笑い方。
「オトナ」というものに憧れる年頃の少年の「何か」をくすぐりました。
1曲目はタイトルの「時の流れに」。
別れてしまった恋人を今だ想い続けるオトコの唄。
「今だキミに狂っているのさ。」というリフレイン。
そんな想いをするにはまだまだ人生が足りない少年ですが、
逆に「憧れ」というものが一番強い年頃。
経験なんてしていなくともそんなことは関係ないのです。

それまでは甘いカーペンターズのようなラブ・ソングばかりを聴いていたのですが
切なさ、苦さといったある程度理解するのに人生経験が必要な感情に惹かれて
唄を聴くようになる最初の出会いがこのアルバムでありました。

さてあれから3倍も生きてきた今、
私自身、当時と比べてどのように変わったことでしょう。
今このアルバムを聴く時は、夜中照明を落としてロックグラス片手に聴いています。
軽い酔いに身を任せてこのアルバムの世界に入っている時、
相変わらずの「切なさ」に心打たれ、当時と変わらぬ感動が身を包みます。
なんだかお酒が飲めるようになったってだけで、
今だ「憧れ」続けているのか。
やれやれ、相変わらず人生経験が足りないみたいだナ。